Greetingご挨拶
2013年4月に名古屋大学大学院医学系研究科に生物統計学分野が開講してから早いもので7年が経過しました。その間、学内外の多くの先生方から多大なご支援を賜りました。ここに謹んで厚く御礼申し上げます。お陰様で、博士・修士課程の第一期生、第二期生を無事輩出でき、ようやく教室運営を軌道に乗せることができたのではないかと考えております。
教室開講から7年ほどの間ですが、医学研究、とりわけ、臨床研究における生物統計学の必要性はますます強く認識されつつあると感じます。このことは同時に生物統計の人材不足がいっそうクローズアップされることになり、例えば、AMEDによる生物統計家(主に実務家)の育成事業の開始などの大きな動きもみられます。
より長期的な視点に立ちますと、今後最も重要なことは、生物統計の「次代の担い手」の育成といえます。担い手となる方は、生物統計の高い専門性をもち、生物統計の実践はもとより、研究もしっかりできる人でなければなりません。このような方はそう簡単には出てきてくれませんので、長期的、持続的な取り組みが必要です。いうまでもなく、そこで要(かなめ)となるのは生物統計の正規の講座・教室です。今後、日本全国でその体制を整備、強化することが特に求められると考えます。生物統計の研究面では、国際交流をもっと積極的に進める必要があります(特に、若手の方の奮起に期待します)。
さて、生物統計学の周辺に目を転じますと、医学・医療分野で獲得されるデータの多様化、ビックデータ化が急速に進み、深層学習などの新しいデータ解析技術を適用する試みが多くみられます。これまでになく多くの数理・情報系の研究者が(最近はGoogleなどの超大企業も!)、医学・医療分野に参入しています。主に生物統計家だけが医学・医療のデータを解析するという認識があるとすれば、それはすでに古いものになっています。生物統計家には、周辺領域との交流・連携をこれまで以上に積極的に行い、その中で自らの役割を再確認することも求められるでしょう。
一方、新規医療技術の臨床開発などの多くの場面では、これまで70年以上の長い年月をかけて生物統計学が培ってきた“質の高い”スモールデータの収集と解析のための方法論は今後も不可欠です。また、方法論の多く(統計的デザインや因果推論など)は、ビックデータの解析においても有効であり、新たな問題への適用によって方法論はさらに進化します。こうして生物統計学にはこれからも大きな可能性が秘められています。そのことを各方面に丁寧に説明し、アピールすることは、今後のビックデータ時代、いっそう重要になってくるでしょう。
今後も微力ですが、自らできることを一つ一つ積み重ねながら、一歩ずつ前進できればと存じます。
皆様方の引き続きのますますのご指導ご鞭撻、ならびに、ご支援をお願い申し上げます。
Biography略歴
1993. 3 | 東京理科大学工学研究科経営工学専攻修士課程修了 |
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1993. 4 | ローヌ・プーランローラー株式会社 研究開発本部統計解析室 |
1998. 3 | 東京理科大学工学研究科経営工学専攻博士後期課程満期退学 |
1998. 4 | 大分県立看護科学大学看護学部人間科学講座健康情報科学 助手 |
2001. 4 | 同 講師 |
2002. 5 | 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野 助教授 |
2008. 7 | 情報・システム研究機構 統計数理研究所データ科学研究系 准教授 |
2009.10 | 同 教授 |
2013. 4 | 名古屋大学大学院医学系研究科 臨床医薬学講座生物統計学分野 教授 現在に至る |